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  • 第5回目インタビュー

  • 昔「いい先生」だった「この人!」 インタビュー
この10年で社会人大学院生が2.7倍に急増中!
なぜ、今、社会人が大学院に向かうのか?

ベンチャー経営者や、社会で重要な役割を担っている人達に、シリーズでお話をうかがっていきます。

取材・執筆:「いい先生ねっと」先生紹介センター代表 寺田貴久子

広告代理店ネット事業担当を休職、
 東大大学院・ユビキタスの研究室へ。
  大学院の入試対策や
   心構えなどをインタビュー。

● 株式会社博報堂 研究開発局 主任研究員 田村大(たむら ひろし)氏
1994年、東京大学文学部心理学専修課程卒業、広告代理店博報堂入社。2000年から休職し、東京大学大学院、情報学環・学際情報学府に入学、2002年修士課程修了、2005年博士課程単位取得退学。現在、 ユビキタスシステム ※ のマーケティング応用研究を中心に、博報堂にて多数の研究プロジェクトリーダーを務める。米計算機学会(ACM)等の主催によるコンピュータサイエンスの国際会議で発表多数。関西大学客員研究員。

※ ユビキタスシステム=いつでもどこでも、人間がコンピュータの存在を意識せずとも、情報通信技術を活用できる環境のこと。


田村氏のプロフィール
90年 東京大学 文学部 心理学専修課程入学。
体育会ヨット部に所属し、年間200日以上の合宿生活を送る。「テスト前になるとノート集めに奔走、学業は二の次の4年間。担当教官にも顔を覚えられていないダメ学生でした。」
心理学というと、フロイトやユングの著作に代表される精神分析のイメージが強いが、田村氏の専攻していた認知心理学では脳の機能発現の勉強が中心で、理系的要素の強い分野でもあったそうだ。
卒論テーマは、『潜在記憶のプライミング効果』 について。 「40人を被験者として図形記憶メカニズムの新しい仮説の検証を行いました。今から振り返ると穴の多い稚拙な研究でしたが、当時の問題意識は現在の研究に通じているように思います。」
94年 広告代理店 株式会社博報堂 に入社
営業職、インタラクティブ企画職を経て、2000年から大学院での研究のため2年間休職。
00年 東京大学大学院情報学環・学際情報学府  修士課程に入学
組み込みOSである TRON ※ を考案・開発した 坂村健教授 の研究室に所属。2002年に修士課程修了。修士課程での研究テーマは 『個人に最適化された展示 ─デジタルミュージアムの開発と評価』
「奨学金を受ける傍ら、Webサイト制作やシステム開発などを請け負い、短期間で集中して稼げる環境を整え、なるべく学業に専念できるように心がけました。」
02年 博報堂 研究開発局に復職
修士課程を修了した段階で研究職として会社に復帰。会社勤務と並行して博士課程に進学し、2005年単位取得退学。博報堂ではユビキタスシステムのマーケティング応用を中心とした研究プロジェクトのリーダーを務める。また、「産学連携のための新しい会議体の発起人を務めたり、コンピュータサイエンスの国際会議で発表を重ねるなど、社外にも活動の場を広げつつあります。」


※ TRON=The Real-time Operating system Nucleusの略。リアルタイム組込OS。現在、TRONは携帯電話、デジタルカメラ、車のエンジン制御など、世界中で数多く採用されている。オープンソース(無償で技術仕様が提供されている)



<目次>
・ 勉強と仕事の両立は可能か?
・ 大学院の試験を突破するには?
・ 大学院の研究で問われること
・ 心理学について
・ 大学院での学びで役立っていること



勉強と仕事の両立は可能か?
───「いい先生ねっと」では、ここ数年、家庭教師を探す社会人からの問い合わせが増えてきました。具体的には、医薬系編入学試験を受ける人や臨床心理士を目指して心理系の大学・大学院への入学を目指す人、TOEICのスコアアップをしたい人などからの依頼です。
 社会人大学院生がこの10年間で2.7倍と急増しているという現在の状況(文部科学省平成15年度学校基本調査による)を踏まえて、今回は、大学院に入りなおそうかどうかを検討している社会人の方などに読んでいただくことを念頭に取材させていただければと考えております。
 まず田村さんが大学院に進もうと思われたその動機について教えてください。


 大学卒業後、広告代理店で営業職に5年、ネット事業部での企画職に2年間従事していました。ネットバブルの真っ只中で、新しい産業の立ち上げにかかわっているという満足感が得られ、それなりに充実した毎日でしたが、一方で、技術革新というよりもマネーゲームに奔走しているだけではないかという虚しさを覚えるようにもなりました。
スジの通った価値観に基づいて仕事ができていないのではないか、単なる思いつきやアイデアレベルで仕事を進めているのではないか、そんな焦りと危機感に悩み、その先に発展性を見出せなくなったのです。そこで自分の価値観の土台を築く必要性を強く感じ、一度ITを基本理論からきちんと学び直してみようと思ったのがきっかけでした。
 最初は仕事を続けながら大学院に通うことを検討していましたが、当時の直属の上司に相談したところ「せっかく大学院に行くんだったら会社はいったん休職して学業に専念したほうがいいよ」 と理解を示して送り出してくれました。

───休職扱いにしてもらえて良かったですね。それに理工系の大学院だと会社に勤めながら通うのは現実的にはなかなか難しいかもしれませんね。

 そうですね。休職して大学院での学業に専念することにして正解でした。

───やはり、大学院での勉強と仕事を両立させることはかなり厳しいことでしょうか?

 それはYesの場合とNoの場合の両方があるのではないでしょうか。
 同級生を見回してみると、文系の研究室では両立できている人が多かったようです。一方、理工系の研究室だと両立はかなり厳しいと思います。私の所属していた研究室は、理論だけではなく、その先の実践が求められるところでした。授業をこなすのもひと苦労ですが、その上、実験の設計や実施・分析、システムの開発まで自分で行うことが基本。結果、仕事量がものすごく多く、それをこなしていく時間のやりくりがかなり大変でしたね。

───なるほど。まあ、大学院といっても色々ありますから、研究者の育成を目的にしている大学院と、MBAやロースクールなどの実務家養成を目的にしている大学院、医療系資格の取得を目的にしている大学院などとは分けて考える必要もあるでしょうね。
 田村さんは工学系の大学院にいらっしゃったわけですが、実際に仕事と両立されている方はまわりにいらっしゃいましたか? 変な質問かもしれませんが、会社と両立している人は大学院に通っていることを会社の同僚とかには隠して仕事を続けている人が多いのでしょうか?


 会社に勤務しながら大学院に通うこと自体に問題があるわけではありません。しかし、実際に両立させている人の中には、直属の上司には了解を取り付けておくけれど、社内のほかの人には内々にしてもらってる、というパターンが多かったようです。夜間や週末に授業が組まれている社会人向けの大学院では事情が異なるかもしれません。
 他の大学院のことはわかりませんが、東大では入学の際に会社の上司のサインが必要です。「仕事より学業を優先させることに異議はない」 という上司の了解が求められるんですね。授業は通常日中、つまり勤務時間中に行われるので、授業に必ず出席することを約束させられているわけです。おかげで学部時代とはうって変わって、毎日最前列で聴講する真面目な学生に変身してしまいました。
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大学院の試験を突破するには?
───ところで田村さんが所属された研究室の 坂村健教授 はあのTRONを考案・開発された先生ですよね。研究室では理工系の出身の方が多かったと思うのですが、入試の時に出身学部は不問だったのでしょうか? また坂村教授の研究室は入るのに大変な倍率だったのではないでしょうか?

 まず私のいた学際情報学府というところは出身学部の文理を問わず門戸を開いてます。倍率という点からいうと、研究科全体で最初200人ぐらい受けて50人ぐらいまで絞られますので、約4倍だったと思います。坂村研究室はそのなかで4名の採用でした。

───大学院の試験科目というのは?

 大きく分けると、専門性を問う内容の試験と、語学力を問う試験がありました。前者は論述がメインの筆記試験です。いわゆる大学受験のような 「設問に対して決まった解答が求められる」 ような形式ではありません。あと英語力が問われます。大学院では、英語論文を読んだり書いたりすることは常識。国際会議などで英語発表することもあるので、英語力は必要不可欠です。

───あと、大学院試験の場合は、研究計画書の内容がかなり重要なポイントだと聞きましたが…。

 それは確かにそうですが…、でも研究計画書というのは、現実的には誰も信用していない(笑)

───えっ、そういうものなんですか(笑)

 選考の時点で、こいつの研究が将来ものになるかどうかなんて、わかるわけがないので(笑)
 計画書の内容そのものよりも、面接では研究者としての資質や情熱とか意欲とかに重きが置かれているような気がしますね。どうやったら合格できるかという質問を受けたことがありますが、大学院の試験は、大学受験で求められているものと根本的に違うと思います。本来、研究機関としての大学院は、本質的な問いを立て、思索を深める場所。その入口として問われるのは、知識量というよりも、何を問題とするか、そしてそれにどうアプローチしていきたいか、という意欲やセンスなのではないでしょうか。
 僕からアドバイスできるとしたら、ある程度自分で研究したい広いテーマを決めておいて、専攻に関連した専門書や研究資料を読む、実際にその研究をしている人から話を聞くなどの、地道な準備をしておくことでしょうか。

───研究に対する姿勢やその着眼ポイントが重要ということですね。

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大学院の研究で問われること
───基本的な質問ですが、自分の希望にあう研究科や研究室を探すには、どのようにして情報を集めたらよいのでしょうか?

 大学院では、研究科の名前よりもどの教授につくかが重要ポイントです。指導を行う教授がカリキュラムの紹介をしたり、在校生やOBが質疑応答してくれたりする大学側主催のガイダンスもあるので利用するといいと思います。

───大学院にせっかく入ったのに途中でドロップアウト(辞めてしまう)してしまう人は多いですか?

 残念ながら多いですね。仕事との両立が難しくなって…というパターン以外にも、もともと大学院に求めていたものと現実が違っていたことに気づいて辞めていった同級生もいました。勉強と研究とは全く別物なんです。勉強というのは先人が考えたことを理解するということですが、研究では自分で独自に生み出す力が必要なんです。

───大学院ではオリジナリティが問われるということでしょうか?

大学院の時の使用テキストの写真。ほとんど英語。  そのとおりだと思います。勉強は研究にとって必要条件なんだけれど、充分条件ではありません。勉強がよくできれば何かを生み出せるかというと、そんなに甘くない。大学院に来てからそのギャップに苦しむ人がたまにいます。自分の興味のあることが世の中で必要とされていることとイコールかどうかもわからず、その研究がはたしてセンスがあるかどうかの判断も自分では難しい。それで苦しいものだから一生懸命、本当に一生懸命勉強して、ほかの人が言ってることをうまいことつむぎあわせて形にしようとしてしまう人もいるけれど、それでは研究としては全く認められません。

───せっかく大学院という最高学府で何年もかけて学ぶのですから、本人のためにも世の中のためにも、ニーズのある新しい研究であってほしいですね。ある海外のベンチャーキャピタルが、「研究者は発表した論文の数ではなくて、市場に送り込んだ研究の数で評されるぐらいの厳しさがあってもいい」 という辛口コメントを出してました。確かに象牙の塔であってほしくないとは思いますね。
 ところで、坂村教授の研究室の特色とかはありますか?


 坂村研究室では直接1対1で指導を受けることができます。研究室のメンバーひとりひとりが個別のテーマで研究を進めているケースが多いのが特徴かもしれません。
 ほかの理工系の研究室だと、チーム制が多いようですね。教授や助教授のすぐ下にチームリーダーとして博士課程の高学年の学生がついて、さらにその下に何人かの修士や学部の学生がいて、組織的にプロジェクトをすすめていくという仕組みが一般的かもしれません。

───あの坂村教授に直接指導を受けることができるのですか? それは素晴らしいですね。

 はい、そうですね。講演やテレビ取材での応答などご覧になったことがあるかもしれませんが、坂村教授はあの通りとてもエネルギッシュな方。カリスマという言葉はこの先生のためにあると思えるような人です。それと、坂村教授はお金を引っ張ってくる力が凄い(笑) おかげで坂村研究室では非常に大きな予算のなかで研究に専念できる環境が整っています。

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心理学について
───ところで、心理学系は文系のなかでも人気の高い科目ですが、学部時代に心理学を専攻されたのはなぜでしょうか?

 東大でははじめの2年間は教養課程、3年次に専攻を選びます。どの専攻に進もうか、ギリギリまで悩んでいたのですが、そんな時、偶然大学内の生協書籍部で手に取った『心の社会』という本がひとつのきっかけになりました。著者はミンスキーというMITの人工知能学者で、「人間の心は機械で表現できる」 という彼のアイデアにこれまでの価値観を覆されるほどの衝撃を受けたんです。その流れで、人間の知覚や記憶システムがどのようなメカニズムで構成されているのか、ということを勉強できる専攻にすすみたいと思いました。記憶の問題について言えば、世の中の出来事が、見る側面とか状況とか心の状態によって全く違う事象として捉えられるのはなぜだろうとか。

───全く同じ事象でもそれを受け取る人の経験・レベル・考え方によって見解にフィルターがかかるのは何故だろうという研究ということでしょうか?

 世の中というのは非常に客観的なように見えるけれど、観測のポイントによって客観的と思われている事象が全く違うことに捉えられてしまう、ということです。僕がやっていた記憶の研究の必読書のひとつに 『目撃者の証言』 という本があります。同じ事故を見た人でも全く違う供述をすることがしばしばある。しかも、彼らは誰も嘘をつくつもりはない。著者のロフタスは、人はそれぞれ注意のポイントが違っている、つまり、人間の認知というものはまったく客観的なものではない、と結論付けています。

───それはおもしろい話ですね。人それぞれの視点によって、同じ事象でもまったく違う出来事の認知となってしまう、その脳のメカニズムについて研究するということですね。

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大学院での学びで役立っていること
───会社に復職されて、大学院で学んだことで役立ってることについて教えてください。

 専門分野への理解を研究職として実際に仕事に役立てています。そのほか、大学院卒業後は、自分の携わっている業務を俯瞰的に捉えることができるようになりました。プロジェクトをすすめていくうえで迷うことがあった時、1回大きく引いて全体を眺めてみる、というのがすっかり癖になりました。

───目の前の問題だけに取り組むのではなくて、大局的な見地が身についたということですね。

 そうですね。たとえば、携帯電話に載せるアプリケーションについて企画したとしたら、以前は特定の新しい技術に特化したとんがったことを考えてしまいがちでした。でも今は、そもそもその機能を携帯電話に載せる必要が本当にあるのか、というところまで、かなり引いたところからものごとを見ることができるようになったと思います。

───世の中とのかかわりも含めての自分の仕事の位置づけや意味合いを考えられるようになったということですね。修士課程を修了された段階で復職されてますが、休職したまま博士課程まで専攻するご予定はなかったのでしょうか?

 博士課程の3年間まで休みをとると会社でのブランクが長くなってしまいますからね。貯金も修士の2年間ですっかり枯渇してしまいましたし(笑) それと博士課程は修士課程と違って、授業の単位をとる必要がほとんどないんです。なので博士課程に進みつつ、復職することにしました。また博士課程修了には学術業績が問われます。ジャーナルや国際会議で何本発表しているか、という最低ラインがあるんです。国際会議での発表本数はすでにクリアしていて、博士課程修了に必要な単位も取得済みなので、来年までに論文を提出し、博士号を取得することを目標にしています。

───来週からまた海外出張ですよね。お忙しいところ本当に有難うございました。

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● 田村氏の隠れた一面
───最後に趣味などをお聞かせくださいませんか?

 パーティ料理などを作って人に振舞うことが好きですね。仕事柄、海外出張が多いのですが、キッチン付のコンドミニアムを借りて、その土地の名産品や美味しいお酒を買いあさって、たくさんの人を呼んでイタリアン料理などでもてなしたりします。
 あとスーパーマーケットもすごく好きですね。


───えっ、スーパーマーケットが好きなんですか? …どういう意味でしょうか?

 スーパーマーケットは、その国の食文化、お国柄を感じる場所のひとつなんですよ。


───あっそれならわかります。スーパーマーケットの日本と海外の違いなどが面白いということですね。

 例えば、海外のスーパーマーケットで、野菜・果物などの旬を強く感じさせる品揃えやディスプレーに感心する時があります。ホワイトアスパラガスのシーズンなどは、入口に近いコーナーがホワイトアスパラガス一色にディスプレーされていたりするんですよ。またサプリメントだけでひとつのブロックいっぱいに埋め尽くされていたりするのを見ると、その品揃えの豊富さにわくわくし、自分の知らない商品をひとつひとつチェックしたりして、時間のたつのも忘れて幸福感すら感じてしまうことがあります。


───私も海外に一時住んだのでよくわかりますが、パッケージグッズとかもユニークですよね。

 肩ロースひとつとっても日本とさばき方が違うなーと面白く感じたり。手先がもう少し器用だったら、料理人が天職だったのかなぁ? と思うぐらいですよ。


───料理好きということは人をもてなす心や思いやりをいっぱい持ってらっしゃるということですよ(笑) どうも有難うございました。




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本人や会社への直接のお問い合わせはご迷惑がかかりますのでご遠慮ください。もしお問い合わせがある場合には、当社経由でメールを転送させていただきます。ただし返事は差し上げかねますし、その反応についてのお問い合わせもご遠慮ください。また内容によっては、転送しないこともありますので、予めご了承下さい。
※ メールの件名に「田村大様」と明記のうえ、story@11sensei.net までお送りください。
2005.07.12 品川アロマクラシコにてインタビュー。

取材・執筆:「いい先生ねっと」先生紹介センター代表 寺田貴久子


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